正直、「絶対」といえるほど「合格」の自信があった!
と、当時の僕は思っていたが、こうして現在予備校の講師として長年大学受験に携わっていると、受験に「絶対」はないものなのだということを実感している。思いがけないケアレスミスがあったり、勘違いがあったり。そう、世の中は不確定だから面白いわけで、「絶対」はあり得ない。
けれども、あの時の自分は「絶対合格しているはずだ!」と、かなり強気だった。(笑)
今と違い、昔の大学合格発表のシーンは実に派手だった。ドデカいボードに合格者の番号と氏名が張り出される。そしてそこに名前があると胴上げが始まったりもした。
また、自分のように遠隔地で発表を見に来られない人には電報受付なんてものがあったりした。
そう、この『電報』ってやつに僕はやられてしまったわけだ。大学が直接電報受付をしてくれるわけではない。部費稼ぎに様々な部が電報受付をしていたわけである。そして、僕もそれに申し込んだ。話によれば、合格発表後すぐに電報を打つので昼前には連絡を受け取れるということだった。…………
しかし、夕方までなしのつぶて。イライラするだけだった。そしてやっと受け取った電報を開いてみたら。
『オキナワノナミタカシサイキヲキス』
……だったわけである。正直なところ、今思えば、電報ってのは全てカタカナで書いてあり、見て直ぐに理解できなかったりする。
「オキナワ」は分かる。その後「ノナミ」????なんてことになる。
何度か読んで
“沖縄の波高し再起を期す”
と理解した。……いや、理解しねえぞ!!
「何で落ちるんだよ!」という怒りの気持ちの中で「閃いた!!」
そういえば、地元の新聞社が合格速報を掲載するとか聞いていた。もちろん、それは翌日の朝刊だろうけど、合格者一覧は入手済みなはずだ。
僕は電話の受話器を取った
ダイヤルしたのは104。そうか、今の時代はもう、この番号を知らない人もいるかもしれない。
今ならネットで検索だろうけど、まだ1982年にネットはなかった。Windowsは98年。
そんなわけで、知りたい相手の電話番号は104を回して(プッシュじゃないよ(笑))電話番号調べでオペレーターに尋ねることになる。
「すみません。大学合格者を発表している新聞社お願いします」
「???????お客様、どういうことでしょうか?」
そりゃ、オペレーターも意味不明だったと思う。(笑)
僕は深呼吸し、落ち着いて事情を話した。すると、オペレーターが言う。
「それでは、沖縄タイムスと琉球新報の2社がございますがどちらにいたしましょうか?」
僕にとっては初めて聞く新聞社の名前。何だかよく分からない。二つとも教えてくれればいいのだが、オペレーターが言うには1件いくらとして伝えるので、どちらかを選んでくださいということなのだ。
僕にとってはどっちでもいいわけだけど、オペレーターにとっては選ばせるのが仕事らしい。
何だか分からないけど「沖縄タイムス」と僕は答えた。するとオペレーターは淡々と番号を読み上げる。僕はそれをメモして電話を切った。
今になって思えば、「沖縄タイムス」と口にした言葉が『縁』を作ってくれたのかもしれない。
それから30年後、沖縄タイムスの連載エッセイ『唐獅子』の執筆を半年間依頼されることになったのも不思議なものだと感慨深い。
さて、僕は沖縄タイムスに電話をした。
「はい、沖縄タイムスです」
「あの、琉球大学に合格しているはずなのに、不合格らしい電報が来たんですよ」
「?????????」
そりゃ、相手は意味不明だっただろうなあ(笑)
「すみません、どういうことでしょうか?」
「あの、琉球大学の受験生で、今、東京から電話しています」
「ああ、そういうことですか。それで?」
「今日合格発表だったのですが、間違い電報じゃないかと思ったのですが、調べようもないんです。それで、新聞に合格者が掲載されると聞いていたので、確認していただけないかと思って電話したんです」
「??????????」
またまた意味不明らしい。それで、僕は電報を頼んだことなどの詳細を電話口の人に伝えた。
「そうですか、ちょっとお待ちください」
といってその人は周囲の人にことの流れを説明している声が聞こえてくる。
今思えば、あまりに唐突で身勝手な電話によくぞ対応してくれたものだと不思議に思う。
「あっ、もしもし、本当はこういう個別のお答えは出来ないんですが、わざわざ東京からお電話いただいているので調べてみましょう。お名前は?」
僕は学部と名前を告げた。
「はい、少し待ってくださいね」………
「トリミツ……トリミツ」
「アッ!……ヒロシさん?」
「はい?」
「トリミツ ヒロシ……合格してますよ!おめでとう!!おめでとう!!涙でてきちゃうさあ!!よかった、よかった」
今思えば、沖縄独特のイントネーションで、顔も知らない赤の他人の僕に声を詰まらせながら「おめでとう!!」を連発してくれた沖縄タイムスの方の真心に感謝したい。
こうしてすったもんだの後に、僕の前には沖縄への新たな人生の道が開かれたのだった。
つづく
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